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秋の夜長は文字を読め

100万回いきたねこ  -sivasix版-

いつのことかわからないくらい、大昔のことだったといいます。
まだ今よりも動物が少ない時代、一つの生き物が生まれました。
その時代では、他の動物同様、まだ名前はありませんでしたが、
だいぶあとになって「ねこ」と呼ばれるようになったのです。

ねこが初めてこの星に生まれた時、ねこだけでなく、様々な動物が
一緒に生まれました。
今も怖いときがあるけど、優しい犬。
海の中を右に左に泳ぐ、俊敏な魚。
大空を自由に羽ばたく、優雅な鳥。
森に住む少しケンカっ早い、力持ちの熊。
そのほか、いろいろな生き物たちが、時には力をあわせ
時にはいがみあい、この星の上で暮らしていたのです。

その時が訪れたのは、ねこが生まれて数年が経ったときでした。
体が大きくなり、生きるための理も知るようになりましたが、
体の調子がおかしくなってきていることに気がつきました。
狩りをしていても疲れるのが早くなり、また、走るときも
前と同じような速さで走ることができなくなってきたのです。
そして、体のあちらこちらも痛くなってきた。
やがて動くこともままならず、巣にいる時間も増えました。
エサは蓄えてあったし、ほかの動物たちが時折運んでくれるので、
どうにか生きることだけはできましたが、体の痛みがひどくなる
だけでなく、物を考えることも次第にできなくなっていったのです。
体が動かなく、思考も薄らいでいる時間が長くなりました。
それに加え、近くに住んでいた動物たちもあまり近寄らないように
なり、命の灯が消えるのは、そう遠くないでしょう。
でも、ねこは、それがどういうことかわかりませんでした。
初めて授かった命であったこと、生きるもの全てに訪れる死という
道理、自分自身が生きている理由、全部わからなかったのです。
「ぼくは何だったのかな・・・」
太陽が何回か落ちた日の夕闇、ねこはそう思い死んでいきました。


最初のねこが死んだあと、地球にはたくさんの猫が生まれました。
体が大きかったり、毛が長かったり、同じ動物ですが、少しずつ
体も変わっていったのです。
ねこの死後から数年経ち、あるところに、一匹の猫が生まれました。
その猫自身はもちろん気がつかないのですが、その猫は、ねこの
生まれ変わりだったのです。
ねこが死んで数年しか経っていないとはいえ、猫だけでなく、
他の動物のあいだでも「生きること」や「死ぬこと」について、
少しずつわかってきたといいます。
やがてそのねこにも死が訪れました。
でも何も感じずに、死を静かに受け入れたのでした。


その後もねこは生まれ変わり、いろんな生き方をしました。
孤独に生きるときもあれば、他の猫と一緒に暮らしたりする、
生まれてすぐに命を落とすことも多々ありました。
新たに生まれた、人間という生き物と暮らすこともあったようです。
ねこは、生まれ変わりだとは気付かず、いろんな生き方をしました。


人間と暮らすようになり、永遠とも思える時が過ぎました。
ねこや猫、動物達が生きるためには、少々やっかいなことが
あるとはいえ、それでも昔よりは生きやすい環境だったのでしょう、
少しずつ命も永らえるようになりました。
病気をしても治してもらえるし、食べるものももらえたので、
人間と一緒に暮らす動物にとっては、天国のようだったといいます。
それがずっと続くことと、人間だけでなく、動物達も思っていた
のですが、ある日、それは突然に崩れ去ってしまったのです・・・


いつものように、ねこは縁側に眠っていました。
その日は五月蝿い子供たちもいなく、静かに眠っていたのですが、
いきなり地面が揺れたかと思うと、一瞬のうちに周りが熱くなり、
それを感じる間もなく、ねこは命を落としたのです。
人間達が争いを始めて、その争いに勝つために爆弾というものを
落としたのです。
その爆弾が落とされたことによって、ねこや動物だけでなく、
世界にいた沢山の人間が死んでいきました。
何十億という人間や動物の命が瞬時に消え、地球に残った生き物は
それまでの何百分の一、いえ何万分の一になってしまったのです。


爆弾が落ちても、ねこは生まれ変わることができました。
数が少なくなったとはいえ、それでもまだ動物は生きていたのです。
人間がたくさんいたとき程は生きやすくないけれど、
遥か昔のように、何とか生きていくことはできたのです。
そんな中、ねこはまた生まれて、そしてまた死んでいくのです。


何回目の生まれ変わりかわからなくなった時、またねこは生を
受けたのですが、それまでとは様子が違っていたといいます。
母猫と一緒に生まれた他の猫たち、そして周囲にいる少しだけの
動物を除くと、命の気配がまったく感じられないのです。
動物だけでなく、あれだけあった緑すらも殆ど残っていません。
それでも他の動物が死んだものを食べたり、わずかに残る水を
飲みながら、何とか命だけはつないできました。
しかし、それすらも無くなりかけ、他の兄弟たちも命を落とし、
ついに、ねこ一匹だけとなってしまったのです。


「にくが食べたい・・水が飲みたい・・・・・」
行けども行けども乾いた土が続く大地を、ねこは彷徨います。
たまに見つける草を食べるのですが、ねこの体は限界に近く、
何かを食べた感覚すらも、失ってしまっていました。
絶える事の無い空腹感や、逃げ場の無い照り付ける太陽の暑さが
ねこの思考や、命そのものを奪っていくのです。


何も口にしていない日々が続き、既に数日。
ついに、ねこの命が失われるときがやってきました。
「・・・・・」
何も考えられなくなり、ただ薄れ行く意識だけを感じて
ねこは岩場にできた、日陰に体を横たえました。
思考も途絶えかけたとき、一つのことを思いだしたといいます。
「そういえば、昔おなじようなことがあったような・・・
 あの時も食べ物がなくなったんだよな。
 そしてこう思ったんだっけ、”ぼくは何だったのかな”って。
 あれから何回か生きた気がするけど、何だったんだろう・・・」
そう思い、ねこは静かに目を閉じました。


「ねこや、ようく聞きなさい」
・・・? 何者かの声がねこに囁きかけます。
「これまでよく頑張りましたね。 でも、もうよいのです。
 何度も命を授けましたが、こたえが見つかりました。
 ”自分は何だったのか?”と疑問を感じたようなので、
 それについてこたえましょう。
 あなたが生きた理由、それについては他の動物達全部に当て
 はまることなのですが、命を繋いでほしかったのです。
 この星に生命が誕生して、かなりの時間が経ちます。
 生まれては死に、そしてまた新しい命が生まれる、地球では
 それが繰り返し行われてきました。
 これも、あなただけでなく、他の動物も同じなのですが、
 個々の動物が生きる理由や目的などはないのです。
 理由があるとすれば、さっきも言ったように唯一つ、
 命を繋ぐこと、だけです。
 これまで何種類かの動物が、永遠に続くと思えるような
 繁栄をしてきましたが、どの動物も環境の変化や、同種間での
 対立のせいで、滅んできました。
 結論はまだ出せませんが、同一種が永劫に繁栄するのは無理なの
 でしょう、とわたしは考えたのです。
 なので、同一の動物で繋ぐことはやめにして、たくさんの種族で
 命を繋ぐことを試みました。
 その結果の一つが、あなた達のような猫であったり、他の動物
 だったのです。
 わたしはもう少しだけ、動物の可能性を信じてみようと思います。
 あなたには想像もできないとは思いますが、ここからずっと
 離れた所に、今新しい命が生まれようとしています。
 その動物が、これからどのような命の紡ぎをするかわかりま
 せんが、しばらく様子をみたいと思っています。
 ねこ、あなたは本当によくやってくれました。
 猫という動物を創造してよかったと、わたしは思います。
 永い間疲れたでしょう、ゆっくり休みなさい・・・」


それを聞き遂げたねこは、二度と開かないと思われた目を少しだけ
開け、雲ひとつない、澄んだ青い空をじっと見つめたあと、
また目を閉じ、永遠の眠りについたのです。


遥かな大地、新たな生命が同じ空の下で、目を開けようとしていた。







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>すずみん
残念! これはドリキャスで書きました!(嘘)
「死」をどういうものかを教えるのは、ちょっと大変ですな(^^;
これが中学生とか、せめて小学生高学年くらいになれば
何とか噛み砕いて教えられそうですけど、子すずみんって、
まだ小さいんだよねえ?
何か考えてみます。。。
ちなみに原作のは、またちょっと違ってまして、
どっちかと言うと、愛の深さを語るみたいなお話になっております(個人的にはそうかと)。
紹介者のmakiさんには感謝しております、な作品です。
sivasix | URL | 2007/10/17/Wed 07:36 [編集]
100万回生きた猫ってこんな感じなのかな?
これも携帯で?…って冗談です(笑)
私の娘はまだ「死ぬ」っていうことがどういうことなのか分かってないようで、私もどう伝えればいいのか考えてしまいます。

sivaさん、さすがですね。とても良い作品でしたよ(^o^)/あんまりうまく感想かけなくてごめんねー。
すずみん | URL | 2007/10/16/Tue 14:16 [編集]
>ジミにぃ
感想文ありが10です(^^)
下書きしたほうが良かったですね。
文の構想自体は頭に入っていたので、
いつもの事ながら、その場の気分に任せて入力しているので、
少しおかしな所があるんですよね。。。
ブログの文字数や大きさ、段組なんかも長文書くときの悩みなんですよね。
わざわざ、他にHPスペース貸りるのも億劫ですし。
次回作は構想のみ決まっているので、ドウゾお楽しみに(^^)
sivasix | URL | 2007/10/11/Thu 09:38 [編集]
宇宙そのものが命なのかなって読んで思いました…(;_;)
ジミへん | URL | 2007/10/03/Wed 12:41 [編集]
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